■演劇で、世界を変える。
「人間」を「人間」たらしめるものは何か。
「感情」とはどこから生まれるものなのか。
これは数多ある人間の疑問の中でも、最も難解で、おそらく永久にその答えは手に入らないもの。
誰もが一度は触れる命題。
あなたにとって人間とは?感情とは?
そして、演劇とは?
どうもむらたまです。
この度、少年社中『トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~』のゲネプロ取材をさせて頂きました。
少年社中と言えばSF/ファンタジーと人間性が融合した作風、そしてそれらを身体的パフォーマンスと照明、音響、衣装など、あらゆる角度からのアプローチで以って創り上げる、華やかで疾走感のある世界観が持ち味となっている劇団です。
実は私が少年社中の作品に触れたのは「第20回公演」の『アルケミスト』。
当時は私も舞台をメインに活動、を夢見る、若き舞台人でありました。
そのとき実はDM登録をし、公演の案内を受け取っていたりもしています。
徐々にメンバーの皆様の活躍の場が増え、公演の規模が大きくなっていく様子を見ている間、役者の目線を以って「演劇というものを続けていくこと」のすごみを痛感する日々でした。
そんな私が「20周年」をこの目で見届けることになりました。
「演劇で、世界を変える」と銘打たれた本作。
ある意味、自分への自戒を込めての鑑賞です。
でもやっぱりほら、愛するキュウレンジャーを創り上げてくれた毛利亘宏氏率いる少年社中さんですよ。
間違いないという期待でテンアゲ!(テンアゲ)
■あらすじ(公式より引用)
これは遠い未来の物語。
世界は一つとなり、争いの無い平和な世の中となっていた。
世界を統治する「トゥーランドット姫」の下、人々が“感情”すら失う厳格な管理社会。
平和を脅かす危険な思考を持つ者は姫の命令のもと、その場で処刑される…。
だが、姫はその世界に疑問を感じ始めていた。
そして遙か昔に失われた感情「愛」を夢見るようになる。
そんな中、姫は一人の少年と運命の出会いを果たす。
その少年の名は「カラス」。
彼は管理社会を打ち壊そうとするレジスタンスの一員であった。
彼らの反逆の手段は、遙か遠い昔に禁じられた「演劇」。
カラスたちは、この世界に演劇を蘇らせることで世界を変えようとしていた。
カラスは「演劇」をした罪で捉えられるが、そこでトゥーランドット姫と出会い、二人は運命の恋に落ちる。
二人は仲間と共に世界を変えるために、偶然にも「トゥーランドット姫」と「カラス」という名前の主人公が出てくる物語『トゥーランドット』を演劇として上演しようとする。
演劇で世界を変える。世界は変わる。
■これは間違いない(確信)
管理社会の規制による平和というディストピア。
それに対抗する手段としてレジスタンスが選んだのは、最も「感情」を消費する「演劇」。
これは間違いない(確信)(二度目)
「管理社会」というのはSF作品によく出現するモチーフではありますが、感情そのものが命に直結している世界って想像以上にディストピアだと思います。
「そう」思ってしまっただけで死ぬかもしれない。
それ故に思考を止めなければいけない。
ゆるやかに人間として死んでいき、ともすれば身体的に死んでしまう。
本当に恐ろしいものです。
それに対抗する「手段」として演劇を用いる危険性は、もう目に見えています。
何せ、思考の羅列を繰返す演劇です。
ひとつの台詞やシチュエーションに対していくつもの思考を行います。
タブーとする感情と常に密接し、しかもそれを繰返す。
一見「非常に演劇的だな」という結論で終わりそうなこれ。
実は本当に、ものすごい闘いなのです。
このテーマに「劇団」が挑戦するというのはつまり、登山家がエベレストに登ると同義。
少年社中さんの闘いの集大成が、ここにはあります。
■本編ざっくりむらたま視線
本編の主軸のひとりである、松田さん演じる「カラス」は、レジスタンスがつくる劇団「シアターバード」のメンバーの一人として登場。
くるくると変わる表情と、バネの利いた動きでステージを所狭しと駆け回る姿がまっすぐで純粋で印象的です。
そしてシアターバードの面々も個性的かつ愉快。
舞台役者「あるある」な姿を披露してくれるコミカルな三人娘のシーンは演劇ファンにはたまらないかもしれません。
また、時に厳しく芝居に熱いシアターバードの演出家・ペンギンを演じるのは、仮面ライダージオウにも出演した少年社中メンバーの堀池直毅さんですよ! ゴースト回の警察官の彼です!
個人的に三人娘とペンギンのやりとりは爆笑必至でした。
井俣太良さん演じるモズは、シアターバードの公演、つまり「劇中劇」にて盲目の役を演じます。
そのお芝居が本当にリアル! 動き、表情とも研究しつくされていて、劇中劇なのにこのままこれを観ていたい…とさえ思わせました。
謎の男を演じるのは鈴木勝吾さん。
陰のあるミステリアスな雰囲気が素敵。さらに衣装も素敵!
少しくたびれたシニカルな雰囲気とかっちりあった軍人風味の姿はたまりません。殺陣シーンは必見です。惚れます。
そんな男の前に現れるティムールは、岩田有民さんが怪しさたっぷりで演じています
そんなシアターバードの面々と出会い、「感情」を知りたい、私も「演劇」をしたい! と現れる生駒さん演じる「トゥーランドット姫」。
衣装チェンジがあるのですが、どちらの衣装も大変可愛かったです。
感情を抑制する管理社会の大元である彼女が、カラスやシアターバードの面々と触れ合うことで、少しずつ本来の彼女に近づいていく姿はとても健気で、ときめきます。
姫やシアターバードたちレジスタンスを追い詰める悪役として、白く輝く衣装を纏い現れるローランはどこか中世的な美丈夫。
そして、その部下となるピン・ポン・パンの三名はSFファンなら間違いなくくすっとしてしまう「彼ら」に似ています。
色々なところで舞台・SF好きにはたまらないツボを刺激してくるので、とにかくあますところなく見つめていきましょう!
■引き寄せる力
前述した通り、少年社中さんの持ち味となるのは身体的、視覚的な演出。
それに乗っかり、さらに一際輝くのは役者の皆様の熱演です。
発せられる台詞、瞬間的に変わる表情、体の動きひとつひとつが観客の心をつかみ、あっと言う間に埋め尽くす。
そして役から役へと渡されるその表現のリレーによって、それらがひとつなぎになっていく。
あの大きなひろびろとしたステージが、ゲネプロゆえに人もまばらな客席が、彼らによって一分の隙もなく「存在」で埋められていました。
重厚な演劇空間が途切れることなく、あっと言う間に2時間もの時間が過ぎていきました。
それを作る決め手となるのは光や音や衣装ではなく、出演者全員のお芝居による力なのです。
ゲスト、そして主演となる生駒里奈さん、松田凌さんの存在は言わずもがな。
ただ一人ライトを浴びて立っていたとしても、視線も心も引き寄せられる不思議。
取材時の生駒さんによる
「(役作りは)自分で、というより、稽古をしながらみんなに作っていただいた」
というお言葉を聞いたとき、ふと、とあるシーンの生駒さんの姿が頭を過ぎりました。
あのときの存在感。
きっとそういうことなのだろうと強く確信しました。
■演劇とは
私にとっての「よい作品」というものは、その中の世界観や人物の存在が最大限にこちらに伝わり、「ここに『居る』んだなあ」と感じられるものです。
それを成立させるのは作り手の愛と、その愛を客席に伝えきる力。
観客である私たちはそれに触れ、些細でも、ただひとつでも、感情を受け取り、それをきっと心や記憶のどこかで育て続けていくのです。
今回の『トゥーランドット』を通して、あらためてそれを実感しました。
そして、その先の答えがひとつ出ました。
殊に、演劇や舞台作品というものは、人が人の目の前で、なおかつリアルタイムでその行為を行う分、ダイレクトに感情やエネルギーが飛び交い、そして失敗する可能性やリスクも高い。
伝えようとするだけでは、受けとろうとするだけでは成立しない。
でもだからこそ挑戦しようとする人々もいる。
作り手は心を燃やし、見るものは心を惹きつけられる。
演劇はヒトの感情への、「愛」への挑戦。
「演劇に、なぜ心惹かれるのか。演劇とはなにか」という、私にとって長らく命題だったものが、今ようやくひとつの結論につながりました。
私の世界は、変わりました。
ありがとう、という気持ちで胸がいっぱいです。
取材時、主宰の毛利氏はこう言っています。
「この作品をつくるために20周年やってきたんだな、という強い手応えを感じております。
(中略)
あとは、演劇にとって一番大切な、お客様という最後のパーツをお迎えして、この作品が本当に爆発するんじゃないか、すごい作品になるんじゃないか、と自信を確信に変えております」
『トゥーランドット』
少年社中が送る、果てしない演劇への尊敬の意と愛情。そして私たち観客への、世界へのラブレター。
ぜひ皆さんが最後のパーツとなり、彼らの愛情を、自らの世界に受け継いでいって欲しいのです。
(村田麻衣子)
少年社中20周年記念ファイナル
少年社中第36回公演
『トゥーランドット ~廃墟に眠る少年の夢~』
【脚本・演出】 毛利亘宏
【出演】 井俣太良、大竹えり、岩田有民、堀池直毅、加藤良、廿浦裕介
長谷川太郎、杉山未央、山川ありそ、内山智絵、竹内尚文、川本裕之
生駒里奈、松田凌 / 有澤樟太郎、赤澤燈、ザンヨウコ
馬場良馬、鈴木勝吾 / 藤木孝
【オフィシャルサイト】 http://www.shachu.com/trd/
【少年社中公式Twitter】 @shonen_shachu
■東京公演
2019年1月10日(木)~20日(日)
サンシャイン劇場
■大阪公演
2019年1月24日(木)~27日(日)
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
■福岡公演
2019年1月30日(水)・31日(木)
ももちパレ
Kazuaki Fujiwatali
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